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自動車設計のコアを見直す

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自動車業界では、車の販売において機械的な駆動よりも自動車のデジタルインフラがより重要な要素になる新しいパラダイムを「加速化」している。ダイムラーのジグマール・ハーシス(Siegmar Haasis)R&D CIOは、「今、製品のイノベーションと差別化をリードしているのは、電機、電子、ソフトウェアがその80%を占めている」1と述べた。 100年間続いてきた自動車設計のパラダイムは、車載用クラウド、CAR.OS、自動車向けサブスクリプションモデルのようにスマートカーソリューションを含むソフトウェア中心の戦略にシフトしており、自動車業界では新しい流れが生まれている。 このような変化は、バーチャルショールームにアクセスすればすぐに確認できる。新車をオンラインで購入することは、まるで新しいノートパソコンや携帯電話を買うことに似ている。接続性、電池の寿命、ディスプレイの品質、カメラの数と解像度は、エンジンの排気量とシャーシのような機械的設計ほど、重要性が高まっている。実際に、自動車メーカーのWEBサイトに掲載されている自動車の仕様一覧は、スマートフォンメーカーの仕様一覧に酷似している。 ソフトウェア中心にシフトして可能になったこと 家のように快適な運転環境 居心地とスタイルは車を購入する際にいつも優先される要素だったが、デジタルインフラの発展により、リーズナブルな価格で前は実現できなかった家のような快適さを提供できるようになった。家に着く前にスマートサーモスタットが家の温度を自動的に下げるのと同じく、スマートカーはドライバーが車に乗る前に車内を快適な温度に調節する。ドライバーがシートに座ると、車はドライバーが自宅や携帯電話で聞いていたオーディオを選択する。これらの例は一部に過ぎないが、徐々に自動車と家の境界がなくなっていっていることを示している。 このような変化に伴い、消費者は、自動車を単なる移動手段として捉えるのではなく、家と職場に次ぐ「第3の空間」と認識している。車で長い時間を過ごすため、車が家の延長線であり、仕事に対応できる場所になることを望んでいる。 今日の消費者は、これまで自動車が提供していた基本的な機能を超え、総合的で没入感のある車内体験への期待を高めている。 移動中にレジャーやエンターテイメントはもちろん、仕事まで可能に アメリカ人は1年間、約700億時間を車の中で過ごしており、世界的には、ほぼ4,000億時間に達しているという。2 運転する時間をレジャーやエンターテイメント、もしくは仕事ができる時間として活用できると想像してみよう。 自動車メーカーが、1日に7時間以上、動画を消費するZ世代のような若い購入者の関心を引きつけるために競争することにより、このようなビジョンは急速に現実化している。3 実際、一部の大手自動車メーカーでは、すでにこれについて検討を始めている。テスラはゲーマーのためにSteamを提供し、クラブで停車する間にパーティーを楽しむ人々のためにカラオケ機能を提供する。ビジネス指向のドライバーのためにフォルクスワーゲンカリアド(CARIAD)はアウディ車両にWebExを導入している。4 自動運転と先進運転支援 2023年8月、自動運転技術のリーダーであるウェイモ(Waymo)とクルーズ(Cruise)は、サンフランシスコで年中無休の24時間利用可能な商用ロボタクシー(robotaxi)サービスを開始し、業界に有意義な道標を示した。5 このアプリケーションでは、ソフトウェア中心のデジタルインフラが非常に重要である。 すべての人が完全にハンドルを車に任せたがるとは限らないが、多くのドライバーは、自動運転技術で提供されているハンズフリー平行駐車などの運転支援技術を高く評価している。自動運転技術がどのように人のミスを減らし、ドライバーと歩行者の安全を向上できるかがよくわかる。同技術に関する研究によると、人が起こした事故の80%以上は、自動運転で被害を減らせるか完全に避けられると予測されている。 技術による交通手段へのアクセシビリティ格差の解消 アメリカ人の26%が様々な障害を持って生きており、多くの人々が日常生活の中で最大の困難の一つとして交通手段を挙げている。6 自動運転のイノベーションは、あらゆる乗客がより簡単に旅行できるようにし、モビリティが特権ではなく、誰でも享受できる権利であることを体験できるようにする。   新しいパラダイムに向けた技術支援 OTAアップデート OTA(ワイヤレス)アップデートは、車両のソフトウェア(バグ修正を含む)を改善し、新しい機能とパフォーマンスを追加することに活用されている。例えば、昔からテスラのオーナーは、朝、車に乗ったら寝ている間に改善された機能がアップデートされているのを見て喜んでいた。 しかし、このようなアップデートを提供する上で、セキュリティが重要な課題になっている。エンドツーエンドのセキュリティを通じ、ハッキングを回避できる安全なOTAアップデートを提供するためには、セキュアメモリ、セキュアストレージ、セキュア通信チャンネル、セキュアブートストラップシーケンス、セキュアSoCなどが欠かせない。また、安全な製造とソフトウェア配布プロセスも必要である。システムのいずれかの段階でマルウェアが入り込んだら、車両全体が動かなくなることもある。 現在、自動車メーカーでは150以上のソフトウェアサプライヤーと共にそのIPを緩く管理しているが、これはソフトウェアベースの車両に問題になる可能性がある。フォルクスワーゲンは、2025年までにソフトウェアの60%を独自開発することを目指しており、ビッグデータ、セキュリティ、AI機能7をはじめとする中核要素をすべて内製化することを目標としている。このような問題を解消できる究極の解決策は、新しいデジタルアーキテクチャと階層構造を導入することである。 垂直統合アーキテクチャ ハードウェアやソフトウェアの飛躍的な進展は車両設計に革命をもたらしており、より効率的な中央集中型アーキテクチャを実現することで、既存の分散型車両設計方式を置き換えている。 サムスンのロヒット・ボラ(Rohit Bhola)自動車製品企画及び支援首席マネージャーは、「今日の自動車は移動するデータセンターに似ている」と説明した上で「多くの電子制御装置(ECU)とマイクロコントローラで構成されている複雑なネットワークの代わりに、強力な1つのサーバーアーキテクチャですべての電装機能を提供するようになっている。これまでは機能領域のほとんどの作業は、専用のECUを介してネットワークに統合される仕組みだった。その結果、組み込みシステムのアーキテクチャは非常に異質で複雑になり、もはや車両とモノのインターネット(IoT)の接続のようなイノベーションの流れには適しなくなった」と強調した。 車両に搭載され、使用可能になるハードウェアモジュールとソフトウェア機能が増加するにつれ、分散型車両設計は、これ以上有用ではなくなっている。業界では、単にECUモジュールをもっと追加することは解決策にならないとのコンセンサスが形成されている。既存の分散型設計方式は、より効率的な領域とドメイン中心の設計に置き換えられると予想されている(図1)。
図1 車両アーキテクチャ設計の進化
サブスクリプションによる新しい収益創出の機会 車両出荷後もOTAアップデートによるソフトウェアサポートは長期間にわたって提供する必要があるため、メーカー側では同サービスを通じて収益を生み出す方法を見つける必要があり、サブスクリプションモデルに従うのが最も理想的である。 しかし、サブスクリプションモデルをうまく実現するには、前述のドメインまたは特定領域中心のアーキテクチャ方式に車両アーキテクチャを革新する必要がある。選択した階層構造の奥に埋め込まれているモジュールにOTAアップデートを行うためには、慎重に設計され、ターゲット化されたOTAアップデートが信頼できるネットワークを通じて行われる必要がある。 強い転送メカニズム、定期的なアップデート、新しい機能を備えた製造メーカーは、複雑なインフラをさらに効果的に運営できる。 制御ハードウェアとソフトウェアの拡張 車両がより高度化され、ソフトウェアが中心になるにつれ、システム要件が大幅に増加し、より速いSoC、GPU、AIアクセラレータ、より高い帯域幅のDRAM、より大容量のストレージメモリが必要になっている。 先進運転支援システムや自動運転などのミッションクリティカルなアプリケーションでは、複数のSoCでハードウェアを冗長化することが非常に重要である。カメラ、ライダー(Lidar)、レーダーのセンサーデータは、エッジデバイスとデータセンターの両方において推論及び学習される。インフォテインメントとテレマティクスには、最高のユーザーエクスペリエンスを与えるため、複数のSoCが欠かせない(図2)。
図2 公開データを用いたサムスン内部の分析
業界では、L4/L5レベルの自動運転車の場合、DRAMの帯域幅が1TB/sを超えると予想されており、電源を入れる時間がより長くなると見込んでいる。ストレージの構成要素には、より高い耐久性、密度、連続書き込みパフォーマンスが必要になる。 ロヒット首席マネージャーは、「2023年生産モデルの自動車システムには、最大4266Mbpsの入出力信号速度に対応するLPDRAMが搭載される」と述べた。また、「ただし、先進運転支援システム(ADAS)アプリケーションは、レベル3以上の自動運転機能に対応するため、さらに高い帯域幅が必要になる」として、「最大8533MbpsのLPDDR5XとGDDR6/7は、オンボードAIコンピューティングエンジンの駆動に必要なメモリ帯域幅を提供する主な技術になるだろう」と付け加えた。
図3 業界で利用可能なデータを用いたサムスンの分析
自動車の優秀性をリードするサムスン 品質、信頼性、責任は、製品やサプライチェーンの観点から自動車産業の最優先課題である。 サムスンは、最高の設備投資企業として無欠点アプローチ手法を通じ自動車製品のラインナップを備えている。また、要件の厳しいアプリケーションに対する幅広い経験に基づき、優れた運営能力を発揮し続けている。 サムスンは、トータルソリューション企業として、メモリ、ファウンドリ、CIS、ディスプレイ、LEDを始め、先端パッケージングに至るまで、幅広い製品を提供しており、優れたモビリティ向けのメモリソリューションで自動車産業のパラダイムをリードしている。車載用インフォテインメント(IVI)、テレマティックス制御装置(TCU)、先進運転支援システム(ADAS)技術は、新しいモビリティ体験を提供し、私たちの働き方、楽しみ方、生き方の方法と場所を変えている。 LPDDR5/X、LPDDR4/X、SSD、UFS、HBMなどを含むサムスンの垂直統合製品のラインナップの詳細については、こちらをご確認ください。
1 自動車ソフトウェア開発の内製化:OEM及びサプライヤーを取り巻く環境の変化 Siemens.com/autosar 2 車の中でもっと長い時間を送っていると思いますか?そうですね。アメリカ人は、運転席で700億時間を送っています。|AAAニュースルーム」AAAニュースルーム、2019年2月27日、newsroom.aaa.com/2019/02/think-youre-in-your-car-more-youre-right-americans-spend-70-billion-hours-behind-the-wheel/ 3 Faughnder、Ryan、「Z世代は、起きている時間の半分をスクリーン視聴に消費している。これは、ハリウッドにとって良いニュースであり、悪いニュースでもある」、ロサンゼルスタイムズ、2022年4月12日、www.latimes.com/entertainment-arts/business/newsletter/2022-04-12/gen-z-spends-half-its-waking-hours-on-screen-time-heres-the-good-and-bad-news-for-hollywood-the-wide-shot 4 「CARIAD、車にWebExを導入」、2023年10月19日、Cariad、technology,cariad.technology/de/en/news/stories/cariad-brings-webex-to-group-application-store.html 5 「Cruise」、翌月リリーステスト予定の車椅子でもアクセスできるロボタクシーを公開、TechCrunch、2023年10月14日、techcrunch.com/2023/09/14/cruise-reveals-wheelchair-accessible-robotaxi-with-testing-to-begin-next-month/、Accessed19Sept.2023 6 Cruise、安全_レポート_2022_sm-optimized.pdf(ctfassets.net) 7 https://twitter.com/cariad_tech/status/1435878845819801603?s=20