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最高のための最適を探せ。Part 1

- サムスン電子ファウンドリー事業部のDTCOによるGAA MBCFET™ PPAの最適化

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サムスン電子ファウンドリー事業部は2022年4月24日から27日まで開催される半導体学術大会のCICC(Custom Integrated Circuits Conference)で、GAAトランジスタを採用した3ナノプロセスPPAを最適化するDesign Technology Co-Optimization、いわゆるDTCO活動に関する論文を発表する予定です。この論文を通じて、まもなく量産に入る3nmプロセス技術の特徴をより多くの方に伝えるためブログ記事を掲載します。 1. トランジスタはなぜ小さくなることを望むのか。 半導体チップはトランジスタ(Transistor)の集合ですが、本題に入る前にトランジスタについて説明します。 簡単にいうと、トランジスタは小さいスイッチです。また、スイッチの動作は単にスイッチを押すことではなく電流を利用して灯りをオン・オフすることであるのと同じく、トランジスタの動作もオンの時に電流が流れオフの時に電流が流れないようにコントロールします。 このトランジスタをオンにするのは電圧(Voltage)です。電圧を加えて電流の通路を開けると、電流はその通路の電圧の高いところから低いところに流れます。力強く水門を開けると、水圧により水が高いところから低いところへ流れるのと同じです。トランジスタはNMOSとPMOSの二種類があり、トランジスタのSi(図[1] 灰色の部分)で電圧の絶対値が高い領域をドレイン、低い領域をソースといいます。 図[1]と図[2]を参照
スイッチ形態で見たNMOSトランジスタ構造比較をするイラスト
スイッチ形態で見たNMOSトランジスタ構造比較をするイラスト
図[1] スイッチの形からみたNMOSトランジスタの構造の比較 ゲートに一定の電圧をかけてトランジスタをオンにすると、電圧が高いドレインから電圧が低いソースに電流が流れます

NMOSとPMOSの動作を比較するイラスト
NMOSとPMOSの動作を比較するイラスト
図[2] NMOSとPMOSの動作 PFETはマイナス電圧を使用しNMOSとは反対に動作すします。ゲート電圧がマイナスの時に動作し、ドレインの電圧もマイナスで、ソースより低いのでソースからドレインの方向に電流が流れます

半導体の性能を向上させるためにトランジスタを小さくして一つのチップに入るトランジスタの数を多くする理由は、先に述べたように、トランジスタはオンになったりオフになったりします。トランジスタがオンになった状態を1、オフになった状態を0だとすれば、トランジスタは0と1の二進法で計算ができるようになり、私たちが必要とする機能が使えるようになります。トランジスタを小型化すると様々な機能を実現することができ、同じパフォーマンスのチップでも、サイズをさらに小さくすることができます。 2. トランジスタは小さければいいの? それでは、トランジスタは小さいだけでいいのでしょうか。スイッチを振り返ってみましょう。スイッチをオン・オフするのに無駄な力が入るのは良いスイッチではありません。これはトランジスタも同じです。同じ電流を流すのに必要な電圧が高すぎるのは、パフォーマンスの良いトランジスタではありません。 また、スイッチをオンにしたのに点灯が遅かったり、オフにしても電灯がついたままになるのは良いスイッチではありません。トランジスタでも、速度が遅かったり不要な電流が流れたりするとパフォーマンスが悪くなります。 3. トランジスタの性能を最大限に引き出すには? - 良いトランジスタとは小型でありながら小さい力で高いパフォーマンスを発揮するものです。この3つの条件をPPA (Performance, Power, Area)といいますが、私たちはHigh-Performance, Low-Power, Small-Areaを目指す技術を開発してきました。 4. トランジスタの構造を変えてPPA Benefitを高める。 最高のPPAを実現するために、私たちはトランジスタを小さくするだけでなく、その構造も変更しました。トランジスタの電流は図[1]のゲートとSi(灰色の領域)の接合面を通って流れますが、この通路をチャネルといいます。チャネルの形を変えるために構造を変えるためんい図[3]のように大きく3つの構造を変更しました。この変更によりチャネルの幅が広くなり、面の数が増えることでゲートがチャネルをコントロールする能力も向上しました。特にPlanar FETはサイズが小さくなるとドレインとソースの距離(チャネルの長さ)が短くなり、望ましくない現象(Short channel effect)が発生するという問題がありましたが、これをFinFET構造に発展させ、ゲートで通路を覆いコントロール能力を向上させることで問題を解決しました。また、チャネルの幅を広くすることで電流が流れる道が広くなり、流れる電流の量も増えました。さらに、GAAはFinFETのFin(Si領域で魚のひれのように上に突き出た部位)を横に倒した形のシート構造ですが、このシートを積み上げて同じ水平面積のトランジスタながらも、より多くの電流が流れるようにしました。
トランジスタの構造変化による性能と消費電力の改善を示すイラスト
トランジスタの構造変化による性能と消費電力の改善を示すイラスト
図[3] トランジスタの構造変化によるパフォーマンス(Performance)と消費電力(Power)の改善
5. ファウンドリー産業をリードするサムスンのGAA(MBCFET™)。

A. サムスンGAAの効率的な構造 GAA構造は図[4]のようにワイヤー(Wire)型とシート(Sheet)型の二種類があります。Nanowire GAAでチャネルの総幅を広げるためには多層のワイヤーを積み重ねる必要があり、プロセスはさらに複雑になります。私たちはこの問題を克服するために、ワイヤーではなく幅が広いシート型GAAとMBCFET™を採用しました。

NanowireとNanoSheet構造を比較するイラスト
NanowireとNanoSheet構造を比較するイラスト
図[4] ナノワイヤー(Nanowire)とナノシート(NanoSheet)の構造
B. MBCFET™の強み

i. 低い駆動電圧(Operation voltage)と高い電力で効率化を実現! Power(消費電力)はトランジスタの電圧と流れる電流の掛け算です。トランジスタの動作に必要な電圧を動作電圧(Operating Voltage)といいますが、私たちはこの動作電圧を下げてパワー効率を高めることに取り組んできました。上でご説明した、電灯をさらに小さい力でオンにできるスイッチがより効率的なスイッチであることと同じです。MBCFET™は4面をチャネルにするように構造を変化させ、オン・オフ特性(オンとオフをコントロールする能力)が向上しました。蛇口の性能が良くなると少しひねっただけでも水が止まるのと同じく、オン・オフ特性を向上させることで低い電圧でもトランジスタが適切に動作し、動作電圧を下げることで高いパワー効率を実現しました。

プロセス技術の発展による動作電圧(Operation Voltage)の変化
プロセス技術の発展による動作電圧(Operation Voltage)の変化
Fig.図[5] プロセス技術の発展による動作電圧(Operation Voltage)の変化

ii. 高いフレキシビリティでお望みの性能を実現! - 私たちは製品ごとに流れる電流の量が異なるトランジスタを作らなければなりません。チャネル幅を広げたり狭めたりすることで電流の量は調節できますが、FinFET構造はゲートが覆っているFinの高さを調節できないため、チャネル全体の幅を広げるためにFinの数を水平方向に増加させました。しかし、この方法では不連続的なチャネル幅の調節だけが可能です。その理由は、ゲートが覆っているFin一つのチャネル幅がαなら、αの倍数分だけしか増やしたり減らしたりすることができないからです。これに比べMBCFET™はFinFETのFinを横に倒して積み上げる形でFinFETの高さとは別にシートの幅を増減することができので、図[6]のように連続的にチャネル幅を増減できるという利点があります。

FinFETとMBCFET™のチャンネル幅増減方式とそれに伴う電流変化を示すイラスト
FinFETとMBCFET™のチャンネル幅増減方式とそれに伴う電流変化を示すイラスト
図[6] FinFETとMBCFET™のチャネル幅の増減方式と電流(Current)の変化
6. DTCOで最適化を追求。 PPA全体を改善することによる構造の変更を続けていますが、与えられたPPAの利点を十分に活かすことは簡単ではありません。多くのトランジスタが集積しているチップでは設計に応じたトランジスタの配置がPPAに影響を与えるためPerformance, Power, Areaは互いに相反する関係を持ちます。小さいスイッチでも壁を挟むと近くに置けず、スイッチの数が増えてスイッチ同士を繋げる線が長く複雑になると抵抗が大きくなって速度が落ちてしまうのと同じです。 - 一度にすべてを取り入れることはできないので、現況での最適な条件を探さなければいけません。パフォーマンスを落とさずサイズを小さくする方法、同じサイズでありながらパフォーマンスを高める方法、そして小さい力でも同じ性能を発揮できる方法を探さなければなりません。プロセスと設計の両方の観点から「最適」を探すことをDTCO (Design-Technology Co-Optimization)といいます。サムスンのGAA MBCFET™はDTCOの観点で大きな利点があります。 - サムスンのGAA MBCFET™がDTCOとしてどのような強みを持つのか、そしてサムスン電子ファウンドリー事業部はどのようにMBCFET™の長所を生かしたPPA最適化に近づいているのか、来週のCICCで発表される論文を是非ご確認ください。