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最高のための最適を探せ。Part 2

- サムスン電子ファウンドリー事業部のDTCOを通じたGAA MBCFET™ PPAの最適化

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1. Intro サムスン電子ファウンドリー事業部は4月26日、IEEEが主催するCICCにて論文「3nm Gate-All-Around (GAA) Design-Technology Co-Optimization (DTCO) for succeeding PPA by Technology GAA」を発表しました。これは3nm GAA MBCFET™のPPA的メリットを最大化するDTCO活動に関する内容です。以下に、論文の詳細をご紹介します。 2. MBCFET™のPPA最適化: DTCO 上の記事で述べたように、DTCO(Design-Technology Co-Optimization)はPPA(Power(消費電力)、Performance(パフォーマンス)、Area(面積))の最適化を実現する活動の総称です。サムスンのGAAであるMBCFET™はPPAの観点から様々なメリットがありますが、DTCOは最適化を通じてPPAのメリットを最大化することを目標にしています。それでは、MBCFET™のDTCOについて説明する前に、DTCOについて詳しくみていきましょう。 3. サムスンのDTCOの役割 – 最適な組み合わせレシピを提案するシェフ! DTCO DTCOはプロセスと設計を両立させる最適点を見つけ、サムスンの技術力を最大化した組み合わせをお客様に提供する活動です。具体的にどのような取り組みを行ってきたのか、Power(消費電力)、Performance(パフォーマンス)、Area(面積)の観点から一つずつご紹介します。

A. 小さいArea(省スペース)のための最適化 まずArea(面積)の観点からは、DTCOはその名の通り面積を減らすことが目的です。いい換えれば、Power(消費電力)の増加やPerformance(パフォーマンス)の低下を最小限に抑えながら面積を減らす方法を探す活動です。
図[1], 図[2], 図[3]を見てみましょう。

図[1] 2つのトランジスタを繋げたInverter(インバータ)回路図
図[1] 2つのトランジスタを繋げたInverter(インバータ)回路図
図[1] 2つのトランジスタを繋げたInverter(インバータ)回路図
図[2] 回路図をFinFET構造のトランジスタで実際に製作した結果
図[2] 回路図をFinFET構造のトランジスタで実際に製作した結果
図[2] 回路図をFinFET構造のトランジスタで実際に製作した結果
図[3] その結果を上から見下ろした図(Layout)
図[3] その結果を上から見下ろした図(Layout)
図[3] その結果を上から見下ろした図(Layout)

面積を減らすためには図[3] の1~8の要素すべてを最小化することが最も良い方法ですが、それぞれの構造物には目的とプロセス能力に応じた最小限のサイズが存在し、サイズの変更はパフォーマンスに影響を及ぼす要素(ResistanceやCapacitance)も変化させるため、DTCOはプロセスと設計の両方を考慮しながら最適なサイズや距離を決めていきます。最適化と面積の最小化を両立させます。 B. Low-Powerに向けた最適化 上の記事で述べたように、Power(消費される電力)は電圧と電流の掛け算です。消費電力はPerformance(パフォーマンス)に密接にかかわります。パフォーマンスが良い状態とは、大きな電流が流れて回路の動作速度が向上している状態のことをいいますが、パフォーマンスは消費される電力に反する関係にあるため、大きな電流を流して完璧にコントロールするためには高い電圧が必要です。蛇口をひねるより水路を開けるほうが、より大きな力が必要なのと同じです。よって、同じパフォーマンスを発揮しつつ消費する電力を抑える仕組みが必要となります。図[4] (a)の蛇口を見ると、開け閉めにかなりの力が必要です。蛇口を小さな力で開けるためには 図[4] (b)のハンドルのような、開け閉めをサポートする補助器具が必要です。

図[4] 蛇口(A)を開けるためには(B)ハンドルのような補助器具が必要。
図[4] 蛇口(A)を開けるためには(B)ハンドルのような補助器具が必要。
図[4] 蛇口(A)を開けるためには(B)ハンドルのような補助器具が必要。

チップの設計でも同じことがいえます。それぞれのトランジスタが問題なく動作し、低電圧下でもチップが適切に機能するためには追加の構造物が必要です。また、ハンドルの素材や形は様々ですが構造物の形も多様です。そしてPPA的メリットも異なります。 サムスンはDTCOを通じて最適のPPAを備えた構造物を開発、適用することで最適化と最も低い消費電力の両立を実現します。図[5]

図[5] 補助装置(Assist)別PPAの分析
図[5] 補助装置(Assist)別PPAの分析
図[5] 補助装置(Assist)別PPAの分析

C. High-Performanceに向けた最適化 最後にPerformance(パフォーマンス)の観点からDTCOを見てみましょう。High-performanceを実現するためにはチップの設計プロセスにおいて意図せず発生しパフォーマンスの低下をもたらす要素(resistanceやcapacitanceなど)を、DTCOを活用して最低限に抑える必要があります。抵抗(Resistance)の例を見てみましょう。 経路が長かったり狭い場合に抵抗は高くなります。これはパフォーマンスの低下をもたらします。水路が長かったり狭いと同じ量の水を流しても時間が長くかかるのと同じです。

図[6] 抵抗を水路と比較(抵抗はBが最も小さくCが最も大きい)
図[6] 抵抗を水路と比較(抵抗はBが最も小さくCが最も大きい)
図[6] 抵抗を水路と比較(抵抗はBが最も小さくCが最も大きい)

図[7]は電流が流れる経路(配線)です。上の例のように、ⓐからⓑに電流が流れる時に経路を短くすると抵抗が減ってパフォーマンスが向上します。図[7]の(a)の場合、青色の層(Layer1)と緑色の層(Layer2)がそれぞれ横方向と縦方向だけの経路を提供するので最短経路を設定するには合理的ではありません。(b)の場合は青色の層(Layer1)が横方向と縦方向の両方に経路を提供できるので経路を短くなって抵抗が減ります。.

図[7] (a) 各層がそれぞれ一方向のみの経路を提供 (b) 二方向の経路を提供
図[7] (a) 各層がそれぞれ一方向のみの経路を提供 (b) 二方向の経路を提供
図[7] (a) 各層がそれぞれ一方向のみの経路を提供 (b) 二方向の経路を提供

このようなDTCO活動は、トランジスタが小さくなるにつれて重要性が増しています。小さいうえに敏感なトランジスタは微細な変化でも大きい影響を受けるので、MBCFETでDTCOの重要性はさらに高まっています。それでは、いよいよ本題に入りMBCFETのDTCO的メリットについてご説明します。

4. 「最適化」に最適化されたサムスンのGAA MBCFET™ - 結論から申し上げますと、MBCFETはDTCOに幅広い可能性を提供するというメリットがあります。従来のトランジスタの限界を押し広げることで、どのようなメリットを与えるのか一つずつ見ていきましょう。

A. 変化によるパフォーマンスの損失を削減 従来のトランジスタはチャネルの幅を広げたり、動作電圧を下げたりするとパフォーマンスが低下することがありました。上で述べたように、これらは相反する関係ですがMBCFETはパフォーマンスの低下を抑えてDTCOの活動領域を広げます。

i. チャネルの幅の拡大によるパフォーマンス損失の最小化 パフォーマンスを高めるためにチャネルの幅を広げると意図しないパフォーマンスの損失が発生するので、チャネルの拡大をそのままパフォーマンスの向上に繋げることはできません。これは構造物の間で発生するパフォーマンス妨害要素(ResistanceやCapacitanceなど)によるものですが、構造の変化にはかならず起こる現象です。また、構造によってサイズが変わるので構造が異なればパフォーマンスの損失量も異なります。FinFETとMBCFETは構造が大きく異なるため損失量も異なります。FinFETではチャネルの幅を増やすためにFinをもう一つ作らなければならず、MBCFETに比べて構造変化が大きくなります。図[8]のように、水路の幅を広げるのに比べて水路をもう一つ作る場合じゃ同じ幅の水路でも不必要な構造物(黄色の領域)が発生します。このように、FinFETは構造の変化によってパフォーマンスの損失が生じますが、MBCFETは追加Finのような構造物を追加しなくても幅の調整ができ、パフォーマンスの損失を解決します。

図[8] 2種類の同じ幅の水路
図[8] 2種類の同じ幅の水路
図[8] 2種類の同じ幅の水路

ii. 低い消費電力時のパフォーマンス低下を最低限に抑える 低消費電力(Low-power)を実現するためには低い動作電圧が必要です。先ほど挙げた水路の門と蛇口の例で分かるように低い動作電圧では流れる電流の量も減りますが、MBCFETはFinFETよりチャネルの幅が広いというメリットがあるので、動作電圧が低くても流れる電流の量は保たれます。同じ蛇口でも水道管自体が大きいと少しひねっただけでも大量の水が出るのと同じです。MBCFETは低い動作電圧でも大量の電流を流し、パフォーマンスの低下を最低限に抑えます。

B. カスタマイズ・トランジスタ - Flexibility(設計の容易性) 上でご説明したとおり、MBCFET™は連続的にチャネルの幅を増減できます。設計に必要なチャネルの幅を提供でき、最適化のためのチャネルの幅の調節も簡単です。

このようなメリットによりDTCOはさらに高い可能性を確保しました。図[9]のようにMBCFET™はFinFETと異なり、DTCOで単純な範囲を超えたPPA領域を見つけます。また、図[10]のようにNS1からNS4まで様々なサイズのチャネルの幅とパフォーマンス改善の選択の幅を広げます。さらに、動作電圧を下げて消費電力をよりさげることもできます。
図[9] 設計目的別( HD(High Density) HP (High Performance) )PPA水準
図[9] 設計目的別( HD(High Density) HP (High Performance) )PPA水準
図[9] 設計目的別( HD(High Density) HP (High Performance) )PPA水準
図[10] さまざまなチャネル幅と性能オプションを提供するGAA
図[10] さまざまなチャネル幅と性能オプションを提供するGAA
図[10] さまざまなチャネル幅と性能オプションを提供するGAA
5. Outro サムスン電子のGAAであるMBCFET™はDTCO活動における可能性を大いに広げました。サムスンはMBCFET™がもつPPAのメリットを最大限に引き出し、お客様が、最大限そのメリットを享受できるDTCOを目指します。MBCFET™に向けた発展はお客様に最適なプロセスと、より効率的なサポートを提供します。サムスン電子ファウンドリー事業部は、お客様がサムスンのプロセスを通じて最適な結果を創出できるよう、プロセスだけでなくデザイン面でのサポートも行ってきました。より一層の品質向上を目指し、これからも尽力してまいります。