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ウェハ(mm)の上に描く下描き(nm)。Part 2

  • サムスン電子ファウンドリー事業部の「EUV Minimum Pitch Single Patterning」

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サムスン電子ファウンドリー事業部は、「EUV Minimum Pitch Single Patterning」をテーマにした論文をIITC(International Interconnect Technology Conference)で発表しました。今回は、より多くの方に論文とEUV技術について知っていただくために記事を用意しました。 1. 細い線を描くために、もっと細い筆を使おう! 前の記事でフォト工程(露光工程、Photo Lithography)の壁について説明しましたが、光の性質による限界を根本的に解決する方法は、波長を抑えることです。これは波長の長さによって回折現象の程度が変わるためですが、短い波長は回折が広がる角度を減らすことができるため、フォト工程の限界を超えることができます。図[1]のような細い線を描くために細い筆を使用するのと同じく、パターニングの壁は短い波長を使用して解決します。
図[1] 波長が短くなるということは、下絵を描く筆が細くなるのと似ている。
図[1] 波長が短くなるということは、下絵を描く筆が細くなるのと似ている。
図[1] 波長が短くなるということは、下絵を描く筆が細くなるのと似ている。
このため、フォト工程では図[2]のようにさらに小さい下絵、さらに小さいパターンを描くためにパターニングに使用する光の波長を抑えてきました。
図[2] フォト工程に使用する光はランプからレーザーに変わり、レーザーはKr(クリプトン)を活用したKrFからAr(アルゴン)を利用するArFに光源を変更し、波長を減らす。
図[2] フォト工程に使用する光はランプからレーザーに変わり、レーザーはKr(クリプトン)を活用したKrFからAr(アルゴン)を利用するArFに光源を変更し、波長を減らす。
図[2] フォト工程に使用する光はランプからレーザーに変わり、レーザーはKr(クリプトン)を活用したKrFからAr(アルゴン)を利用するArFに光源を変更し、波長を減らす。
しかし、より小さいサイズのトランジスタに対応するには、ArF(193nm)の波長も充分に短くなかったのです。ここで誕生したのが「EUV(Extreme Ultra Violet)」です。 2. EUV(Extreme Ultra Violet)の誕生 波長の限界を超えるために彗星の如く現れたEUV! EUVの最も大きい特徴は短い波長です。この、短い波長を利用して精密にパターニングするために導入されたのがEUVです。 私たちは図[3]のように、13.5nmのとても短い波長をもつEUVを使用します。
図[3] 波長の長さとその長さをすでに知っている物に比喩。従来使用していたArFはDUV(Deep UV)の一つで、193nmの波長をもつ。EUVは13.5nmで分子のサイズより小さい波長をもつ。
図[3] 波長の長さとその長さをすでに知っている物に比喩。従来使用していたArFはDUV(Deep UV)の一つで、193nmの波長をもつ。EUVは13.5nmで分子のサイズより小さい波長をもつ。
図[3] 波長の長さとその長さをすでに知っている物に比喩。従来使用していたArFはDUV(Deep UV)の一つで、193nmの波長をもつ。EUVは13.5nmで分子のサイズより小さい波長をもつ。
従来使用していたArFの波長が193nmだったことを考えると、波長13.5nmのEUVはとても大きな変化です。それでは、この画期的な変化をもたらしたEUVを使用するフォト工程の特徴を詳しく見てみましょう。
A. 強力なプラズマが作り出す短い波長 上記の図[3]を見ると、私たちの身近には虹色の光の領域があります。ここから波長が短い方向に移動すると肌を焼く紫外線、筋肉を通り抜けるX線、がん細胞を死滅させるほど強力なガンマ線が登場します。このように光の波長が短くなるほど、光のエネルギーは強くなります。波長が短い光は大きいエネルギーを持っているため、より短い波長の光を作るためにはさらに大きいエネルギーが必要です。速い球を投げてホームランを打つために、バットをもっと強く振るのと同じです。しかし、DUVの光を作る時に利用していた従来のレーザーでは、私たちが望む短い波長を作るにはエネルギーが不十分です。ここでEUVは図[4]のように高エネルギー状態のプラズマ(Plasma, 気体が電子とイオンに分離された状態。個体/液体/気体の次の状態で、強いエネルギーを持つ)を利用します。
図[4] CO2 Laserを落ちるSn(錫)に正確に衝突させてプラズマを発生させ、プラズマから放出される光を鏡に集めてEUVを発生させる
図[4] CO2 Laserを落ちるSn(錫)に正確に衝突させてプラズマを発生させ、プラズマから放出される光を鏡に集めてEUVを発生させる
図[4] CO2 Laserを落ちるSn(錫)に正確に衝突させてプラズマを発生させ、プラズマから放出される光を鏡に集めてEUVを発生させる
図[4]のようにEUVを発生させるために必ず必要な、特別な器具が1つありますが、その器具は光を集める「鏡」です。鏡は、EUVを作る時だけでなくEUVを利用する全ての工程で利用される、とても重要な器具の1つです。続いてEUV技術の核心と言える鏡について見てみましょう。 B. 反射光学系 - 拡大鏡ではなく、鏡を利用 光には波長が短いほど他の物質に吸収されやすい特徴があります。EUVは波長がとても短く、大気中でも吸収されるので、これを防止するためにEUV設備(EUVを活用するフォト工程装置)は内部を真空にして工程を進めます。EUVの波長がとても短く、光がレンズを通り抜ける時に多量の光がレンズに吸収されるので、このような光の吸収を減らすために、EUVを利用して工程を進める時は鏡を使用します。従来使用していたレンズの代わりに鏡を利用し、光を透過させずに反射させ、吸収される量を減らしました。吸収を最小化し、図[5]のように光が問題なく感光液に到達することで正確なパターニングが行われます。
図[5] DUVまではレンズを利用したが、EUVの場合、波長が短いためレンズ利用時に吸収率が高まる。これを改善するために吸収率が比較的に低い反射(鏡)を利用する。
図[5] DUVまではレンズを利用したが、EUVの場合、波長が短いためレンズ利用時に吸収率が高まる。これを改善するために吸収率が比較的に低い反射(鏡)を利用する。
図[5] DUVまではレンズを利用したが、EUVの場合、波長が短いためレンズ利用時に吸収率が高まる。これを改善するために吸収率が比較的に低い反射(鏡)を利用する。
ここで、1つの疑問がでてきます。光を通過させるマスクはどうすれば良いでしょうか。EUVを活用する工程では、反射を活用できるマスクを使用します。図[6] (a)のように光を防ぐ領域と、透過する領域で構成された従来のマスクを、(b)のように反射する領域と光を吸収する領域で構成されたマスクに変更します。
図[6] EUV マスクは吸収率を最小化するために Mo(モリブデン)とSi(シリコン)が複層に重なった構造の反射鏡を利用し、保護フィルムの役割をするプロテクション層で鏡を保護。反射させない領域は Absorber(TaN)を利用して光を吸収。
図[6] EUV マスクは吸収率を最小化するために Mo(モリブデン)とSi(シリコン)が複層に重なった構造の反射鏡を利用し、保護フィルムの役割をするプロテクション層で鏡を保護。反射させない領域は Absorber(TaN)を利用して光を吸収。
図[6] EUV マスクは吸収率を最小化するために Mo(モリブデン)とSi(シリコン)が複層に重なった構造の反射鏡を利用し、保護フィルムの役割をするプロテクション層で鏡を保護。反射させない領域は Absorber(TaN)を利用して光を吸収。
今まで説明したEUVフォト工程を一目でわかるように表すと、図[7]のような形になります。
図[7] EUVフォト工程の全体露光(ウェハに光を当てる)工程
図[7] EUVフォト工程の全体露光(ウェハに光を当てる)工程
図[7] EUVフォト工程の全体露光(ウェハに光を当てる)工程
EUVとArFを簡略に比較してもう一度整理すると、図[8]のような形になります。
図[8] ArFフォト工程はレーザーで光を発生させ、レンズを利用し、透過型マスクを使用。EUVはこれと異なってプラズマで光を発生させ、鏡を使用し、反射型マスクを使用。
図[8] ArFフォト工程はレーザーで光を発生させ、レンズを利用し、透過型マスクを使用。EUVはこれと異なってプラズマで光を発生させ、鏡を使用し、反射型マスクを使用。
図[8] ArFフォト工程はレーザーで光を発生させ、レンズを利用し、透過型マスクを使用。EUVはこれと異なってプラズマで光を発生させ、鏡を使用し、反射型マスクを使用。
図[8]のように従来とは完全に異なる方法のEUVフォト工程によって、以前は描けなかった小さいものを描けるようになりました。しかし、EUVのメリットは「現在実装可能なサイズのパターンより小さいパターンを描ける」という単純なものにとどまりません。
3. 描けなかったものを描く。数回にかけて描いていたのは一度に描く! PART1の記事では波長の限界を超えるために、1つの絵を数回に分けて描く方法を活用したことを説明しました。これをMPT(Multiple Patterning Technology)といいます。このMPTは小さいパターンを描けるというメリットがありますが、図[9] (a)と同じく数個のマスクが必要で、工程も数回に分けて進める必要があるというデメリットがあります。一方、波長が短いEUVは(b)のようにたった1つのマスクとフォト工程でこのパターンを描くことができます。
図[9] 同じパターンを4つのマスクにパターニングするArFと、1つのマスクでパターニングできるEUV。
図[9] 同じパターンを4つのマスクにパターニングするArFと、1つのマスクでパターニングできるEUV。
図[9] 同じパターンを4つのマスクにパターニングするArFと、1つのマスクでパターニングできるEUV。
このような変化は、時間と歩留まり、そして費用面のメリットをもたらしました。
A. 時間 - 工程の所要時間の短縮 結果を得るのに必要な段階が多くなると、その分長い時間がかかります。簡単な比喩で説明すると、図[9]の(a)が4時間に1つのパンを作る工場だとすると、(b)は1時間に1つのパンを作る工場です。段階を減らし、以前よりさらに早く工程を進めることができるようになったのです。 B. 歩留まり - 汚染を減らし、歩留まりを向上 何度も擦ると汚くなる白い粘土と同じく、工程を数回にわたって進めると、汚染の可能性も複数存在します。半導体工程において汚染は歩留まり低下の原因ですが、EUVはこのような歩留まり低下の原因を減らしてくれました。 C. 費用 - マスクの製作費用を軽減 マスクの製作にも費用が必要です。複数製作したマスクを、EUVを活用して一枚に減らすことができるので、これによって製作コストも軽減しました。
4. プロの料理人の見事な包丁さばきのように。 EUVはその登場とともに大きなメリットをもたらしました。次のステップでは、この良い道具をさらに効果的に活用するために、研究と努力が必要になります。 次の記事ではEUVの能力をさらに引き出すためのサムスン電子ファウンドリー事業部の取り組みついて見ていきましょう。