本文へ移動

OCP Global Summit:開放型技術協業でメモリ技術の限界を乗り越える

  • 共有
激しさを増すグローバルIT産業の競争時代において、「開放」と「貢献による統合協業の強化」は半導体産業が直面している課題に対する解決策となり得るのか? サムスン電子は、協業の力こそがまさにその解決策だと信じている。 サムスン電子は、10月17日から3日間、米カリフォルニア州サンノゼで開かれた「2023 OCPグローバルサミット」に参加した。OCP(Open Compute Project)は、開放型データセンター技術の協力を図る世界最大の組織である。データセンター関連製品のイノベーションを目的として2011年に発足し、これまでに300以上の技術を発表し、世界中の大手IT企業が参加する世界最大の技術イノベーション団体へと成長してきた。 全世界から 4000人が参加した今回のイベントは、「Scaling Innovation Through Collaboration(協業によるイノベーションの拡大)をテーマとして盛大に開催された。協業ベースの効率性、拡張性、持続可能性の観点から、オープンコンピューティングソリューションの開発を加速させることを目指している。 サムスン電子は基調講演を通じ、AI時代における協業の重要性について強調すると同時にメモリ業界が直面している課題を乗り越え、技術革新を続けていくための解決策を示した。メモリウォール問題を解消するためのサムスンのメモリソリューションとOCPエコシステムの協業拡大について具体的に見てみよう。
サムスン電子の基調講演:協業によるAI/ML時代のメモリ問題の克服 今、私たちは本格的なAI/ML時代を迎えている。データ中心の技術が急速に発展するにつれ、ChatGPTのような大規模言語処理に必要なデータのサイズが指数関数的に増加している。一方で、メモリ技術の発展速度は明らかに遅れている。メモリ容量は、2年ごとに2倍ずつ増加するにとどまっている。
帯域幅(Bandwidth)、容量(Capacity)、遅延時間(Latency)、電力(Power)の4つの分野において、データ処理能力に比べてメモリ性能が追いつけない包括的な現象をメモリウォールと呼んでいる。同時に、環境に与える影響も益々大きくなっている。大量のデータを処理する過程でデータセンターの消費電力量は大幅に増加しており、2030年のデータセンターの消費電力量は、2020年に比べ15倍以上も増加すると予想されている。これは、現時点でメモリ業界が直面している最重要課題とも言える。 サムスン電子の半導体事業部門ソリューション開発チーム長のパク・ジョンギュ(常務)は、「協業の力:AI/ML時代におけるメモリ問題の克服(Unleashing the power of collaboration: overcoming memory challenges in the AI/ML era)」をテーマに基調演説を行なった。 サムスンメモリの統合トータルソリューション
サムスン電子は、メモリが直面している課題の解決策として、垂直化しているメモリ階層全体を統合できるトータルソリューションを示した。さらに、ペタバイト級の超高集積システム技術の開発及びAVP技術を網羅するインフラ技術のイノベーションにフォーカスを当てた。
  • • Petabyte-scale SSD(以下、PBSSD):超高集積次世代ストレージソリューション
  • PBSSDは、業界最高レベルの超高集積・ハイパフォーマンス・高効率を誇る次世代ストレージソリューションである。サムスンの最先端のV-NAND技術と最新のデバイス技術を融合し、システム集積度を約30%改善している。電力最適化技術を採用し、PBSSDの消費電力は従来のシステムに比べて20%減少しており、より高いエネルギー効率でデータセンターのラック集積度を高めている。現在開発中のダイナミックパワーマネジメント技術が適用されれば、PBSSDはより少ないエネルギーで、より大きなストレージ容量を提供できる。つまり、ペタバイト級の容量を提供すると共に電力効率を最大化し、さらには顧客のTCO*を改善、環境に与える影響を抑えることが期待されている。 *TCO: Total Cost of Ownership • 高度なパッケージング技術(Advanced Packaging Innovation) サムスン電子は最近、トータルメモリソリューションを完成させる解決策は高度なパッケージング技術にあるとの判断の下、AVP事業チームを新設し、技術の高度化に全力を尽くしている。サムスン電子のDSRA(Device Solutions Research America)Advanced Packaging研究所長キム・ウピョン(副社長)が壇上に上がり、サムスンが注力している先端パッケージング技術のイノベーションを公開した。
  • サムスンは現在、FOPKG、2.3D、2.5D、3Dに至る幅広い先端パッケージポートフォリオを保有している。これに基づき、パフォーマンスと歩留まりを改善させるため、3Dパッケージングへの移行にすべての技術力を集めている。 現在、AI/HPCマシンにはシリコンインターポーザベースの2.5Dパッケージが使われているが、3Dパッケージが実現される場合は2.5Dパッケージに比べ、消費電力は40%、遅延時間は10%削減できる。このように、3D環境ではより細かく、より短い接続が可能になるため、消費電力の削減はもちろん帯域幅や容量、遅延時間を改善できるほか、さらにはメモリウォール問題を乗り越える解決策にもなる。
  • 一方、3次元積層パッケージプラットフォームのX-Cubeを通じ、TCBベースのμBumpとHCBベースのBumplessなど3Dパッケージング技術の進展を披露した。Bumpless積層技術は、μBumpに比べ帯域幅は40倍から150倍まで増加し、Die電力消費を約30%改善できる。 * TCB: Thermal Compression Bonding * HCB: Hybrid Copper Bonding
  • さらに、サムスン電子は高度な異種機能デバイス集積化技術 (Advanced Heterogeneous Integration Technology)で開放型チップレット経済に対応する。 また、I-CubeEなどの費用対効果の高いパッケージプラットフォームを開発し、先端パッケージングの使用範囲を大きく拡大している。I-CubeEは、シリコンブリッジ(Si-bridges)を統合したRDLインターポーザを使用することで、これまでのシリコンインターポーザに比べパッケージ費用を22%削減できる。これは従来と同様の信号及びパワーインテグリティ(signal/power integrity)のパフォーマンスを出すため、レチクル(Reticle)より4倍以上大きいパッケージに対応できる。 さらに、開放型エコシステム内のOCPパートナー、設計、IP、EDA、OSATパートナーと協力し、D2Dプロトコル及びチップレットの開発を支援し、開放型チップレット経済を活性化するための最先端パッケージプラットフォームを積極的に提供していく計画である。
OCP:サムスン電子のオープンイノベーション拡大努力 サムスン電子は、開放型技術エコシステムがメモリにおける課題を乗り越える上で中核的な役割を果たすと判断し、オープンソース技術とエコシステムの拡大に向けて活発な投資を行うなど、様々な努力を傾けてきた。2015年にOCPに参加して以来、オープンソースエコシステムの発展のために努力してきた時期は、大きく、導入段階、成長段階、拡大段階に分けられる。 2023年を機に拡大段階に入っているサムスン電子は、未来のオープンイノベーションへの協力を拡大させるため3つの戦略を策定かつ実施していく予定だ。それは、協業のためのオープンプラットフォームの構築、米国/欧州に続くアジア太平洋地域を中心とするAPACコミュニティの構築、持続可能性のための環境・経済・社会分野における開放型協業である。 その取り組みの一つとして今年7月、サムスン電子メモリ事業部が所在する華城市にOCP Experienceセンターを開所した。同センターはサムスン電子の多様な半導体製品や技術を体験できる空間であり、次世代のIT技術ソリューション及び製品の開発のためのエコシステムパートナー間の協力の機会を創出する協業プラットフォームの中心になると期待されている。 次に、APACコミュニティの構築を通じ、グローバル協業チェーンの拡大の土台を整えた。その第一歩が今年7月4日、韓国におけるOCP APAC Tech Dayの開催だ。アジア太平洋地域は半導体メーカー、システム/コンポーネントメーカー、データセンターなど中核的なエコシステムのメンバーが揃っているハブである。今後、OCPの主導によりアジア太平洋地域のオープンイノベーションエコシステムをさらに強化していく予定である。 また、サムスン電子は昨年、OCPサステナビリティイニシアチブへの参加を宣言し、半導体製品の供給、生産、使用に至るまで段階的なステークホルダーとの開放型協業を通じ、半導体のバリューチェーン全体における持続可能性の強化に向けた努力を続けている。
ハイパフォーマンス・3種類の低電力次世代メモリソリューションを公開 メモリ業界は最近、人工知能(AI)と機械学習(ML)により急増するデータをはじめ、帯域幅、容量、遅延時間、電力など、様々な技術的課題だけでなく、持続可能性のため省エネ課題にも直面している。サムスン電子はこのような課題を乗り越えるための4つの主な次世代メモリソリューションとして、PBSSD、AVP技術が採用されたHBM3、256TB SSDなどを披露して注目を集めている。
  • • 「電力効率を最大化した超高容量ソリューション」 PBSSD ペタバイト級の超高容量ソリューションのPBSSDは、サムスンの最新のV-NAND技術とデバイス技術を融合させて約30%向上されたシステム集積度を実現した製品である。用途に応じ柔軟に容量を可変できるスケーラビリティを提供している。システムに特化した電力最適化技術を通じ、従来のシステムに比べて約20%省電力化できるため、データセンターのラックの集積度を画期的に向上できる。 • 「3D AVP技術適用ソリューション」 HBM3 複数のDRAMを垂直に積層し、面積比集積度が非常に高い高帯域幅メモリ(HBM)は、速いデータ処理速度と低消費電力が特長である。大容量データを超高速で処理する必要がある生成AIなどのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)において重要な役割を果たす。サムスン電子の12段積層HBMは、パフォーマンスと歩留まりを改善するため次世代3D積層パッケージング技術が採用されている。HBM3は、6.4Gbpsの処理速度と819GB/sの帯域幅で、前の世代のDRAMに比べ、速度は1.8倍、消費電力は10%改善されている。 • 「業界最高レベルの集積度を実現」 256TB SSD 業界トップレベルの集積度を実現した256TB SSDは、エネルギー効率をも画期的に向上させた製品である。256TB SSD 1つの容量は32TB SSDを8個積み上げたものと同じだが、消費電力は7分の1に過ぎない。シングルサーバーラックの電力と物理スペースの制限内で最大のデータを保存できる。
サムスン電子は今後も産業の境界を越える協業を拡大・強化することで、メモリ産業が直面している限界を乗り越え、持続可能な未来に向けて引き続き技術開発に取り組んでいく予定である。