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ISOCELLイメージセンサー「D-VTG」の技術

超高解像度を新たな次元に高めたサムスンの新しいピクセル技術

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サムスンは、今年1月、次世代プレミアムスマートフォンで高精細ディテールかつ超高解像度の写真を撮影できる2億ピクセルイメージセンサー、ISOCELL HP2を公開した。また、2023年2月にはギャラクシーアンパック(Unpacked)イベントでISOCELL HP2を搭載したGalaxy S23 Ultraを公開し、高画素と高感度の写真撮影を希望する専門家及び一般のプレミアムスマートフォンユーザーに新しい可能性を提示した。 どんな環境でも可能な限り最高のピクセルパフォーマンスを実現し、繊細で鮮やかな写真を撮影できるよう、サムスンは様々な最新技術を取り入れると共にピクセル構造を改善することで光吸収率を高めている。新しく設計されたピクセル構造であるD-VTG(Dual Vertical Transfer Gate)は、非常に明るい環境でも各ピクセルのカラーとディテールをより鮮明に表現できるISOCELL HP2の核心的な要素である。 ISOCELLイメージセンサーのパフォーマンスを向上させる主な技術、D-VTG技術について詳しく見てみよう。 ピクセル構造とトランスファーゲートを理解する ピクセルに入った光は、受光部のマイクロレンズとカラーフィルターを通過した後フォトダイオードで負電荷を帯びた電子に変換される。その後、電子はトランスファーゲートを通って、フローティングディフュージョン(floating Diffusion)に保存される。 アナログ-デジタル変換回路(ADC)が保存されている電荷量に比例する電圧を生成した後、これをデジタル信号に変える。 トランスファーゲートは、電子がフォトダイオードからプロットディフュージョンへの移動をスイッチのように制御できる。トランスファーゲートを通過する最大電子数は、イメージセンサーのパフォーマンスに大きな影響を与える。トランスファーゲートをより多くの電子が通過できるようになれば、ピクセル内のフォトダイオードのサイズの大型化が可能になる。その結果、トランスファーゲートの最大伝達容量は、ダイナミックレンジなどの複数の画質パフォーマンス指標に影響を与える。 イメージセンサーがますます小さくなり、ピクセルの密度が高くなるにつれ、フォトダイオードと接触するトランスファーゲートのサイズも小さくする必要がある。しかし、トランスファーゲートが小さくなればなるほど伝達できる電子の数は減り、ノイズはより多く発生する。特に、サムスンのISOCELL技術は、ピクセル間に物理的な障壁となる「FDTI(Front Deep Trench Isolation)」を形成することで、ピクセル間の干渉を減らしたが、ピクセルの間に壁が作られるため、自然にフォトダイオードのスペースが減り、捕らえられる光の量が減少していた。 これを解決するため、トランスファーゲートの構造を垂直に変更するVTG(Vertical Transfer Gate)技術が採用された。トランスファーゲートは、フォトダイオードの下に位置するが、トランスファーゲートの構造を水平から垂直に変更すると、フォトダイオードをピクセル内にさらに深く形成できるようになり、小さな面積でも十分な電子を捕らえることができる。トランスファーゲートで、より多くの電子がフローティングディフュージョンに送られ、より多くの光情報を獲得できる。 デュアルVTGの開発 超高解像度モバイルイメージセンサーへのニーズが高まっていることを受け、サムスンは1億8百万画素から2億画素へと解像度を向上させた。光学モジュールの構造とスマートフォンのイメージセンサのフォーマットに限界があるため、画素が高くなればピクセルのサイズは小さくならざるをえず、ピクセルのピッチが小さくなるほどフォトダイオードの面積も小さくなる。これを解消するため、サムスンはFDTI構造ベースのISOCELLのピクセル技術を0.64μmピクセルまで継続的に改善し、DTIのサイズを縮小すると共にプラズマドーピング(PLAD、Plasma-assisteD Doping)を最適化することで約6,000e-レベルの最大飽和容量(FWC、Full Well Capacity)を維持している。 サムスンはピクセルサイズを減らすと同時に超高画素イメージセンサーのパフォーマンスを向上させられるよう、1つのピクセルに2つのVTGを集積するD-VTG(Dual Vertical Transfer Gate)技術を開発し、アイオセルHP2イメージセンサーに適用した。サムスンは、デュアルVTGを実現することで個別トランスファーゲートにおける電圧の制御能力を高め、単一VTGに比べ、伝達パフォーマンスを向上させただけでなく、VTG間の距離、深さ、テーパの傾斜などを最適化し、電子伝達を最大化している。 図1のようにVTGに沿って移動する電子の数、つまり、電位値を見ると、エリア1と2の両方でD-VTGがS-VTG(単一VTG)より電位値が高いことが分かる。
図1. S-VTG(a)及びD-VTG(b)の電位プロファイル。電子伝達経路(c
図1. S-VTG(a)及びD-VTG(b)の電位プロファイル。電子伝達経路(c
図1. S-VTG(a)及びD-VTG(b)の電位プロファイル。電子伝達経路(c)
下図のように2つのVTG間の距離を130nmから20nmに減らし、VTGのサイズも縮小したシミュレーションを行った結果、エリア1ではVTGサイズが大きくなるほど電位値が増加しており、エリア2ではVTG間の距離が近くなればなるほど電位値が増加している。
図2. D-VTG間の距離によるエリア1とエリア2の電位プロファイル及び電子伝達経路
図2. D-VTG間の距離によるエリア1とエリア2の電位プロファイル及び電子伝達経路
図2. D-VTG間の距離によるエリア1とエリア2の電位プロファイル及び電子伝達経路
パフォーマンスの向上 図3は、同じ最大飽和容量(FWC)で測定したS-VTG及びD-VTGの画像遅延の結果である。画像遅延とは、前のフレームでトランスファーゲートを通過できずに残っていた電子が、次のフレームで回路を通過することで色再現性に影響を与えることを表す。1.5Vでは、D-VTGに画像遅延は見られなかったが、S-VTGの場合、約13LSBの画像遅延が発生した。
図3. 同じ最大飽和容量で測定したS-VTG及びD-VTGの画像遅延
図3. 同じ最大飽和容量で測定したS-VTG及びD-VTGの画像遅延
図3. 同じ最大飽和容量で測定したS-VTG及びD-VTGの画像遅延
すなわち、図 4 に示すように同じ電圧で D-VTG が S-VTG より伝達効率が高い。したがって、ピクセルのフォトダイオードをより深く形成し、より多くの光を収容できる。
図4. 同じ画像遅延におけるS-VTGとD-VTGの電位プロファイル
図4. 同じ画像遅延におけるS-VTGとD-VTGの電位プロファイル
図4. 同じ画像遅延におけるS-VTGとD-VTGの電位プロファイル
その結果、D-VTGはランダムノイズ(RN)、ランダムテレグラフ信号(RTS)のようなノイズ及びホワイトスポット(欠陥により電流漏れが発生するピクセル)の特性は、同様に維持しながらS-VTGに比べ最大約66%高い最大飽和容量(FWC)を提供する。 ISOCELL HP2の場合、各ピクセルは、前作の2億画素のイメージセンサーより33%多い電子を吸収する。これによりピクセルがより多くの電子を活用できるようになり、明るい環境における色再現性が大幅に向上した。ISOCELL HP2は、小さなピクセルサイズでも十分な最大飽和容量を実現するD-VTG技術が適用されたサムスン初のイメージセンサーである。サムスンは、このような革新的な技術を様々なイメージセンサーのラインナップに適用し、消費者がより良い画質で写真を撮影できるよう支援していく予定だ。 出典:J. Yun et al., "A 0.6 ㎛ Small Pixel for High Resolution CMOS Image Sensor with Full Well Capacity of 10,000e- by Dual Vertical Transfer Gate Technology," 2022 IEEE Symposium on VLSI Technology anD Circuits (VLSI Technology anD Circuits), Honolulu, HI, USA, 2022, pp. 351-352, Doi: 10.1109/VLSITechnologyanDCir46769.2022.9830254. (Link↗)