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[CES2025イノベーションアワード受賞インタビュー第1編]LPDDR5X、業界最速と最小厚さを可能にした技術力

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CESイノベーションアワード受賞 DRAM製品企画チームインタビュー
CESイノベーションアワード受賞 DRAM製品企画チームインタビュー

2024年11月、サムスン電子が世界最大のIT展示会「CES 2025」を控え、合計29件の「CESイノベーションアワード」を受賞した。半導体部門の「CESイノベーションアワード」受賞インタビューの第1編は、次世代モバイル機器の性能と効率性を更に向上させる中核として評価されているLPDDR5Xである。業界最速であり、最小厚さのLPDDR5Xの開発をリードした商品企画チームのイ・ジュンヨンTLとサムスン電子のチョン・ジンソク首席エンジニアに革新の秘密について聞いてみた。

イ・ジュンヨン TLのインタビューしている画像
イ・ジュンヨンTL
イ・ジュンヨン TLのインタビューしている画像
イ・ジュンヨンTL

Q.LPDDR5XがCESイノベーションアワードを受賞しましたが、まず製品の紹介をお願いします。

イ・ジュンヨンTL: LPDDR5Xは、スマートフォン、タブレット、ノートパソコンなど、高性能を必要とするオンデバイスAIに最適化された製品です。製品名(Low-Power DDR)からも分かるように、バッテリーを使用するモバイルデバイスは、その特性上、低消費電力で駆動しながら最速の動作速度を実現させることが重要であり、デバイスの厚さや発熱の面でチップの厚さを薄くすることが重要な課題となります。

まとめると、「低消費電力で最速の動作速度を持つ薄いチップ」を作ることが重要となりますが、LPDDR5Xは企画から設計、工程、パッケージ技術まで様々な開発部門との協業を通じて、業界最速の10.7Gbpsと業界最小厚さである0.65mmの製品を作り出すことができました。

チョン・ジンソク首席のインタビューしている画像
チョン・ジンソク首席エンジニア
チョン・ジンソク首席のインタビューしている画像
チョン・ジンソク首席エンジニア

Q.業界最速かつ最小厚さのLPDDR5X、このような革新を可能にした技術的な差別点といえば何でしょうか?

チョン・ジンソク首席エンジニア: LPDDR5Xを主に採用しているスマートフォンは、速い速度に対応しながらも放熱に優れた薄くて小さいメモリが重要となります。そうしてこそ、寿命が長く、薄い厚さのバッテリーをスマートフォンに採用できるからです。 

業界最速の10.7Gbpsを実現するために、高速データ伝送IO回路の性能を確保し、高速動作をしながら低消費電力を維持できるように内部動作の電圧を下げる設計技術が活用されました。

イ・ジュンヨンTL: サムスンのLPDDR5Xは、業界最小厚さの12ナノ級のDRAMとなりますが、チップ2つを1層に構成することで4層積層のパッケージングにし、半導体回路を保護する材料であるEMC(Epoxy Molding Compound)に変更することで最適化されました。 最後にウェハーをできる限り薄くしながらも動作特性と信頼性を維持できるようにウェハーの裏面を研磨するバックラップ技術の開発が最重要課題となりました。

LPDDR5Xアーキテクチャ:PCB上でチップとEMCの階層構造配置を示す画像
LPDDR5Xアーキテクチャ:PCB上でチップとEMCの階層構造配置を示す画像

Q.開発過程で多くの困難があったと思いますが、どんな困難があったのか、そしてそれをどのように克服されたのか気になります。

イ・ジュンヨンTL: 10.7Gbpsという速度はサムスンが開発する前まで商用化されていなかった技術ですが、メモリは一般的に動作速度が上がると消費電力が増加します。しかし、LPDDR5Xは動作速度を上げながらも消費電力の増加を最小限に抑える必要があるため、その部分が最も苦労したところだと思います。 最速のチップ開発をするためのシステム評価環境が整っていない状態で、モバイルアプリケーションプロセッサ及びモバイル業者など、多数の顧客企業と開発検証の協業を進める必要がありましたが、顧客企業との積極的な技術の交流や協力を導く過程が本当に重要でした。

チョン・ジンソク首席エンジニア: イTLが顧客企業との開発検証に対する協業についてお話されましたが、製品の開発においてサムスン半導体の中でも特に低消費電力・高性能の製品設計を担当されたDRAM設計グループと、より薄い厚さのLPDDR5Xを作るために絶え間ない研究と開発をしてくださったパッケージ開発チームとの協業によって得られたシナジー効果が大きかったと思います。 製品の開発から検証まで、業界の全方位的な協力がCESイノベーションアワード受賞という良い結果に繋がったようで、製品を担当したPMとしては本当にありがたく嬉しい気持ちです。



Q.速度を向上させながらパワー消費の増加を最小限にするチップを開発するということは、まるで短距離走選手の速いスピードを維持しながら長距離マラソンを走るように容易ではなかったと思いますが、協力以外にもサムスンならではの技術力があるのでしょうか?

チョン・ジンソク首席エンジニア: F-DVFS(Full- Dynamic Voltage Frequency Scaling)技術についてお話しできると思います。一般的にDVFS(Dynamic Voltage Frequency Scaling)技術は、実際にデータが通るPathで使用する電圧を他のPathに比べて一定量以下に下げることで、信号伝送に必要な電力を減らす技術ですが、サムスンのF-DVFS技術は低電圧の範囲を最小値から最大値までフルレンジで活用できる技術であり、動作速度によって電圧を変えて電力消費を最小限に抑えることが容易で、バッテリー使用時間も増加します。

技術別電力消費比較線グラフ:従来方式、DVFS、F-DVFSの電圧傾向を4つの異なる動作ステージで比較する線グラフ
技術別電力消費比較線グラフ:従来方式、DVFS、F-DVFSの電圧傾向を4つの異なる動作ステージで比較する線グラフ

Q.メモリの厚さを薄くすることが重要だとおっしゃいましたね。 チップの厚さが薄くなると、どのようなメリットがありますか?

イ・ジュンヨンTL: スマートフォン市場でフォルダブル製品の需要が増加し、消費者はよりスリムなデバイスを求めています。デバイスの厚さを減らすためには、これを構成する個別部品の厚さを減らす必要がありますが、部品の厚さが薄くなると、機器内の熱排出空間(Air Flow)が確保されて発熱の管理がしやすくなり、スマートフォンでゲームなどの高性能動作を行う時にも温度上昇による性能の制限に関係なく使用することができます。

LPDDR5Xと前バージョンのエアフロー効率比較:チップの厚さが0.71mmから0.65mmに減少したことを強調したLPDDR5Xと前バージョンのエアフロー効率比較
LPDDR5Xと前バージョンのエアフロー効率比較:チップの厚さが0.71mmから0.65mmに減少したことを強調したLPDDR5Xと前バージョンのエアフロー効率比較

Q.LPDDR5Xはスマートフォンなどのモバイルデバイスに採用されるとのことですが、他にどのような製品に活用されていますか?

チョン・ジンソク首席エンジニア: 先ほどお話ししたように、LPDDR5Xは今まで低消費電力が求められるモバイルデバイスでのみ使用されていました。 ところが、最近のAI発展により、大規模なサーバーを運用するデータセンター市場が大きくなるにつれ、「電力」を効率化することが重要な課題として浮上しているため、DDRに比べて相対的に電力の効率が良く高性能動作が可能なLPDDRを採用したいというニーズも増えています。そのほか、PCでの採用も増加しており、他にも電気自動車や自動運転の拡散によるオートモーティブ市場でのAUTO LPDDR5Xの採用も増加しています。

 

Q.LPDDRの採用が、従来のモバイル中心からサーバー、オートモーティブ産業まで拡張されているようです。 AI時代におけるLPDDRの役割がますます重要になりそうですが、開発エンジニアとしてどのようにご覧になっていますか?

イ・ジュンヨンTL: 最近のAI産業の発展スピードを見るとお分かりだと思いますが、技術は急速に発展していて、これに伴うメモリニーズも多様化されています。一般的にAIメモリと言えば、HBMを思い浮かべると思いますが、市場ではHBMのように消費電力とは関係のない最高の性能を求める製品の他にも、低消費電力で駆動しながら一定の性能以上を確保できるLPDDRのような製品に対するニーズが大きくなっています。既存のDDRモジュールに代わるLPモジュール製品(LPCAMM、SOCAMMなど)も同じです。遠い将来、LPDDRがDRAMを代表する製品になり得ると思いますが、担当製品に対する私の愛情が大きすぎるのでしょうかね?

チョン・ジンソク首席エンジニア: 私もイ・ジュンヨンTLの意見に同意します。最近のメモリ産業におけるキーワードは「電力」です。膨大なAIデータの並列処理のためにはデータ伝送速度の増加が必須であり、これに伴う消費電力も爆発的に増加することになります。 他の製品に比べ、低消費電力で高性能のLPDDR5Xはコンピューティングトレンドの変化に対応できる魅力的なソリューションだと思います。

 

Q.最後に製品に関する質問をしたいと思います。サムスンはLPDDR5X以降、どのようなイノベーションを準備していますか?

チョン・ジンソク首席エンジニア: まずLPDDRの製品としては、26年度の次世代ソリューションであるLPDDR6の開発を目標に取り組んでいます。当然ですが、LPDDR6は性能と電力の面でLPDDR5Xより一段階アップグレードされた製品になるでしょう。 LPDDR6が市場に登場する際には、LPDDR5Xのように新しいイノベーション技術をご紹介できると思います。

イ・ジュンヨンTL: 他にもLPCAMM、SOCAMMのようなモジュール型の製品は顧客企業と検証を進行しており、データの入出力(IO)の個数を増やして高帯域幅を確保したLPWと演算機能を加えたLP-PIMなどの高性能、低電力DRAM技術の開発に取り組んでいます。オンデバイスAI以上の応用先へと拡大する予定なので、AI時代におけるLPDDRの活躍を期待してください。

 

これまで、モバイルやオートモーティブ、サーバー、HPC、データセンターの様々な応用先に拡大されているサムスン電子のメモリ半導体LPDDR5Xに適用された技術と未来について考察してみた。 「CESイノベーションアワード」を受賞したLPDDR5Xは来年の1月7日から10日まで米国ラスベガスコンベンションセンターで見ることができる。